不安の演舞/こたきひろし
 
九だったけど、俺は三十過ぎていた。

静子は短大の一年だったけど、俺は飲食店の厨房で働いていた。
静子は夏休みに店にバイトにきた。
いつも元気ではつらつとしていて、人見知りしない女のこだったから、らしくて俺にも普通に話しかけてきた。
テキパキと動いて、接客で雇われたのに仕事を選らばず、厨房内の洗い物も積極的にしてくれた。

ランチタイムの戦争が終わったある日、静子が急に言った。
「Kさんそこで三回まわってみて」
俺は優しくておとなしい男だったから、静子の言いなりになってまわってしまった。
そしたら静子は「ワン」と言ってみてと言ったから、俺は何も考えないで「ワン」と言ってしまった
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