巡り会えない誰とも/こたきひろし
 

夕方隣の娘が出勤して行った。それから間もなく隣のドアが開いた。買い物にでも出掛けるのかと思ったら
私の家のドアのノックしてきたのだ。
私は何事かと怖くなりながら返事をしてドアを開けた。
母親と話すのはその時が初めてだった。
「ご免なさいねお休みの所」
母親は言いながら、最初に私をいちべつしてから私の部屋の中を探るような目で見た。
殺風景な部屋である事は間違いない。独身男の匂いが立ち込めている事も隠せなかった。
私はそれを嗅がれてしまう前に要件を聞こうとした。
「何ですか?」
「いえ、たいした用事はないんですけどね。隣の同士だからご挨拶がてらにお話させていただこうと思ったもの
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