巡り会えない誰とも/こたきひろし
 
駅前まで通い、洋風飲食店の厨房で働いていた。仕事は午後の正午から閉店の十一時までだった。その時間までだとバスはなくなり、帰りは店長の車で送られていた。
そんな勤務形態なので、隣の娘が帰る深夜には起きていた。近くで車の止まる音がしてドアの開く音がして「お疲れ様でした」の女の声が聞こえて「お疲れ」の男の声がそれに応える。そしてドアの閉まる音がした。それから足音が近づいてきて私の家の前を通り抜けると隣の家のドアの開けて中に入る。
そこから母親と娘の会話が始まる。
小声だったが壁越しに聞こえてきてしまうのだ。
それは建物の構造に問題があるので、私には何ら落ち度はないのだが、盗み聞きしてるようで後ろ
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