カワラナデシコの妖精/丘白月
細く可憐な姿で立つ撫子
見るものすべてを
優しい心に変えて
花びらは切なく開いて
髪飾りにどうぞと誘う
細く長い茎を手にするとき
妖精の言葉が聞こえてきた
いつもこの季節になると
思い出すことが一つだけあるから
あなたにだけ教えてあげる
昔 ここはお城のお庭だった
ずっと見守っていた優しかった
お姫様が光になって消えてしまった
まだ小さくて着物が大きく見えて
可愛らしかったお姫様が
もういない
逢えないとわかった時
その日私は
花びらを切り刻んで
泣いて泣いて
もうどこにも行かないと誓った
お姫様の胸にいっぱいの撫子を並べて
お庭を撫子で埋め尽くしたわ
大好きだと言ってくれた私の姿
月あかりの晩には
いまでも庭を見ているような気がして
星にもお願いして並んでもらう
お姫様に似ているこの花を
今日も咲かせる
内緒で遊んだあの河原にも
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