車窓 ( SS)/山人
にとそのコーヒーをいただいた。
駅名のない駅のホームでは、特別変わったことなど何もなかった。普通の景色があり、老いた人や、働く婦人、試験勉強でテキストを眺める女子高生、普通に働く駅員など、名のない駅ということを誰も意識していないようだった。
郊外のとある駅の電車は、まだ出発時間を待っていた。ふたたび椅子に腰掛けて、老婆からもらった缶コーヒーのプルトップを開ける。固いプルトップだった。老婆の力であけることが出来るのだろうか、きっと近くの人にお願いしてあけてもらっているに違いない、そう思った。
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私は本を読んでいる。わりと本を読むのは好きだったが、最近、もう20年近くだろうかまとも
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