車窓 ( SS)/山人
 
はずはない、これは夢だ。そもそも名もない駅なんて言うのがあろうはずがない。
現実とはなんなんだろう?もしかしたら、缶コーヒーのプルトップに残された一滴のコーヒーの液体が、その積み重ねが未来をつくるのではあるまいか。
車窓に置かれた缶コーヒーの空き缶をふたたび逆さにし、残った液体をすすりこむ。甘さとほろ苦さとミルクの香りがまさに缶コーヒーの味だった。
タバコを咥える。しかし、吸っていないのだからライターなどないはずだ。唾液のついたままフィルターを咥え、擬似喫煙する。まさにこれが煙であれば、11年ぶりの煙が津波のように肺に押し寄せ、そこに棲む膨大な細胞群たちはおののき、のた打ち回るだろう。
 ふと、アナウンスが聞こえてきた。15分の待ち時間は終了し、ふたたび出発するのだという。きっと未だ長い旅なのだろう。今度はぜひ名前のある駅になっていて欲しい。私はそう思い眠りにおちていったのだ。





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