MAR November 4 2003/カワグチタケシ
 
ことの困難がそこにある。もしかしたら僕たちは今までずっと、「〜について」しか話してこなかったのかもしれない。それでなにかすっかり共有した気になっていただけなのかもしれない。それは、情景やマテリアルに感情を代弁させることに似て、かぎりなく空虚なことだ。

 真夏、美術館の裏庭で、僕は一本の孟宗竹に右耳をつけている。竹の空洞で増幅された水音が聴こえる。竹の導管を上る地下水の音だ。僕は目を閉じる。左耳に聴こえていた蝉の声が遠ざかっていく。ごぼごぼと竹に吸い上げられる水の音が近づいてくる。

 
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