あなたに/浅見 豊
 

深い追憶のように
眠りがあなたの肩にやさしく降りてくる
わたしはちいさな歌をつくって
あなたのそばでうたいつづける

──約束だよ
  かならずもどって来てね

(あの日 静かな 陽射しの中で
   ぶなの林は どんなふうに
     あなたに語りかけたのか・・・)

いいえ
思い出さなくてもいいのです
風は
ただそこにあるだけで
あなたの瞼を静かに閉じてゆくだろうから
何もかも

──約束だよ

言葉ではいちどもあなたを愛さなかった
小鳥たち
その腕で一度もあなたを抱きとめてはくれなかった
木々
小川
それらのもののために

思い出さなくてもいいのです

(わたしはどこへも行きはしなかったから
 わたしはどこへも行きはしなかったから)

葉ずれの音は
ただそこにあるだけで
あなたの瞼を静かに閉じてゆくだろうから

(わたしの歌は日がな一日
 同じところをまわっている)




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