あなたに/浅見 豊
深い追憶のように
眠りがあなたの肩にやさしく降りてくる
わたしはちいさな歌をつくって
あなたのそばでうたいつづける
──約束だよ
かならずもどって来てね
(あの日 静かな 陽射しの中で
ぶなの林は どんなふうに
あなたに語りかけたのか・・・)
いいえ
思い出さなくてもいいのです
風は
ただそこにあるだけで
あなたの瞼を静かに閉じてゆくだろうから
何もかも
──約束だよ
言葉ではいちどもあなたを愛さなかった
小鳥たち
その腕で一度もあなたを抱きとめてはくれなかった
木々
小川
それらのもののために
思い出さなくてもいいのです
(わたしはどこへも行きはしなかったから
わたしはどこへも行きはしなかったから)
葉ずれの音は
ただそこにあるだけで
あなたの瞼を静かに閉じてゆくだろうから
(わたしの歌は日がな一日
同じところをまわっている)
戻る 編 削 Point(3)