九月の空から/こたきひろし
 
それは異常気象の極み

前兆は何もなく
学者も気象予報士も誰も予想出来なかった

それは異常気象の極みだった
そうとしか説明がつかない

それまで蒼くすみきっていた
九月の空から
くだものが雨のように降ってきた


毬栗
林檎 梨 葡萄
果実が空から降ってきた

みんなあたしの食べたいものばかり

少女は大喜びで家から飛び出した

それは少女の想像力の極み

その日
九月の空からは何も降らなかった

父親は
愛娘にいつ初潮が訪れたかを知らない

娘は母親にだけ教えた

当然だよな
父親と言えども男なんだから

娘と言っても
女なんだから

こわいくらい
女になっていくんだから

この先
異常気象がどんなに進んでも
くだものが空から降って来たりはしないだろう

しかし
私の娘は季節の深まりとともに
熟れていく果実

そのうち
よその男が木からもぎっとっていくだろう

私が
むかし
ひとつの果実をもぎとったように

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