虚舟/帆場蔵人
月夜の庭の物陰で土と溶け合い
消失していく段ボールの記憶よ
何が盛られていたのか、空洞となって
久しく、思い返すことはないだろう
お前は満たされた器でなかったか
瑞々しい果実と野菜に陽の輝きが
盛られ滴っていた、またお前は
寄る辺なき舟でなかったか
人と同じく空虚を宿した
舟でなかったか
ボール紙の波形は断崖の漣痕、そう
波間を漂う舟や魚であった名残り
遠い祖先のDNAと夕食の鯖が折り重なる
断層の幽かな揺れを指先でなぞる
生まれ来た人が齢とともに少しずつ
言葉や記憶を返してやがて去るように
庭の物陰に漂着しひとつに還っていく
段ボールが土との境を曖昧に溶けゆく
間(あはい)に尽きる人のなれ果て
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