秋へ向かう歌/帆場蔵人
遠い国の少年の歌声が柵を乗り越えて
仔馬がいなくなった落日に秋が来た
枯れ葉が地を水面をうちながら
次第に翳る空の気まぐれに高原で
樹々に寄りそう祖霊たちが笑っている
やがて色褪せていく
花輪が木にかけられています
あれは誰のものでしょうか
丘の小屋から子どもたちの歌声が
雨の木立を縫って歩く旅人の足音が
煮えたつ鍋のなかで茹であがってゆく
ファルファッレ、白い蝶が掬いあげられ
口に流しこまれてやがて産声に変わる
秋を喜ぶ歌声にあわせ
花輪が埋葬されるものたちに
たおやかにかけられてゆく
ご機嫌よう、またおいでください
秋の訪れとともに去るものたちよ
柵を乗り越えた仔馬を見守る歌を歌え
高原の樹々に寄り添いながら
仔馬と白い蝶の戯れ、冬の先にいたる
遥かな山嶺を越えていく雲の行方を
いつかの少年が見上げている
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