ku-dan/la_feminite_nue(死に巫女)
 
々と家との間で、建物と建物との間で、路上や地下で、また中空に、件がいると感じられるなら、そこに件はいるのだ。雲のように、彼岸花のように。あるいは、件の影が。自分の手の指先が、茎のように細長く伸びるのを感じたら、自分の口先から風のような音が鳴るのが聞こえたら、中空に無数の透き通った泡沫が現れるのを目にしたら、そこには件の影の影が触れている。あるいは、件の影の影の影が。
 件について、一つだけ知られていることがある。それは、件がとても細長い者であることだそうだ。あるいは、か細い腕のように。あるいは、白い絹糸のように。そして、件を最初に見た者が、件について最初に話をした時、件は誰からも見られ得ぬ者となった……。
 件は、ビル街の谷間の広いアスファルトの上を、あるいは空中を、人に知られずにさまよう。件のことを知りたいと願った時、人は件の影、あるいは件の影の影、あるいは件の影の影の影に、すでに取り憑かれている。一度知ったのであれば、その「影」から逃れることはできない。件の影に取り憑かれてしまった者は、すべてを「件の影」として話してしまうようになるのだから。
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