ku-dan/la_feminite_nue(死に巫女)
件は、ビル街の谷間を人に知られずにさまよう。件を見た者はない。人には見えないのだ。ある者は、件は影だと言い、ある者は、件は光だと言う。かすかに足音が聞こえるだけだ、そう言う者も。誰にも見ることはできないのだから、件に係る表現は、憶測の賜物だろう。件をもし仮に見たとすれば、すでにその者は狂気に取り憑かれている。黄泉のごとき不安の中で、件そのものとなって狂死するのだそうだ。
件は、この世ならぬ者であり、彼の世の者であるのだ。また、件は言葉にすらできないという者もいる。件のことを話していると信じる者は、件の影についてしか言っていないのだと。その件の影すら、件の影の影であるのかもしれない。街の家々と
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)