まねごと――やすらかに老いる町/ただのみきや
柱に身体(からだ)もたれて息切らす老婦の着物日差しに褪せて
紫の裳裾に覗く足袋の白仏間の祖母の匂いを思う
かけ出した幼児を追って母叫ぶ坂で止まれず顔から転び
泣きじゃくる声顔すべてが愛おしいカッカと燃えるつぶらな命
花を見るその目が蜂に乗り移り秋桜揺らす風の睦言
来る雨の匂いに迷う羽蟻たち綿毛のように風にころげて
雨は打つすべて楽器に変えながら譜面は黒く塗りつぶされる
縋る手も祈る手すらも老いたなら神仏の耳また遠くなり
蜘蛛の子を哀れと思い捨て置けば天井四隅いつしか霞む
重ねても厚くも濃くもならぬ影ことばは心の影法師か
《まねごと――やすらかに老いる町》
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