秋の始まり/la_feminite_nue(死に巫女)
 
 秋の始まりの日に、僕は思い出と思い出とを仕分けしている。記憶と幸福とを峻別する。何が答えで何が問いだったのかを分からないから。神さまは時どき贈りものをくれるよね、僕たちの手のうえに。それがたとえ、失われるものだったとしても。僕たちがなくした何かは、僕たちに期限をつけて神さまがくれた贈りものだった。そう思える時、僕たちは何かを失ったのか、何かを返しただけなのかを、分からなくなる。新宿の街を歩いていて、ココナッツの実を目にした。最初は、スイカかメロンだと思ったけれど、僕はそれを未来として見ていた。僕の記憶のなかにはないものだったから……、南国の青空の下にいるように。小雨のなか、曇り空の下、僕はただ新宿の街を歩いていた。ココナッツの実が未来だと思いながら。思い出と思い出とを仕分けしながら。失ったものは、神さまからの贈りものだったのだと思いながら。
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