露草つゆくさ/福岡サク
 
(ああ、秋の空は露草を集めて染めるのですよ)
(あれこそまことの青ですわねえ)

天からつゆくさが降る、
つゆくさ、つゆくさ、
地が青に染まる、
つゆくさ、つゆくさ、
どこかで鈴がちりりと鳴る、
つゆくさ、つゆくさ、
青を浴びながらぼくは立ち尽くす、
つゆくさ、つゆくさ、

家々の屋根に青が降りかかる、
アスファルトのおもてを青が覆う、
ビルの谷間を青がとうとうと流れる、
ぼくはビニール傘をさして歩く、傘に積もるつゆくさ、
海いちめんにつゆくさ、テトラポットにつゆくさ、
波打ち際につゆくさ、くるぶしまでつゆくさ、
天の欠片なる青を地のすべてがすっくり抱き留める、

つゆくさ、つゆくさ、
青に埋もれて死んでいく、
つゆくさ、つゆくさ、
瞳もつめも青く染まる、
つゆくさ、つゆくさ、
ぼくの頭蓋を割ってくれ、
そこからわっとあふれる、
つゆくさ、つゆくさ、つゆくさ。


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