ミルクより白いものも、ユリよりも白いものも僕は知らない/竜門勇気
 

御婦人は僕に秘密を打ち明けた

あの猫ね、死んだのよ

僕は野良猫の死に興味はなかった
だけど話を聞いた

初めてあった日、ミルクを飲んで行ってしまったの。
それから毎日、朝の水やりのときには玄関の前にいるようになったわ。
そして一週間ほど経った頃玄関の前で私が支度していると声が聞こえた。
私を呼んでいるとすぐに分かったわ。

でも、少しづつあのこは弱っていったの。
あなたにあのこの話をしてからもう一年以上立つわね。
この一年は本当に幸せだったの。
あの人が好きだったユリが咲く庭で優しい猫のなく声を聞いて。
先週、冷たくなった猫を初めて抱いたの。私は。
男の子だった。知らなかった。ずっと触れさせてくれなかったから。
もしか、うちのこになってくれればよかったのに。
あのこもユリが好きだったのかしらね。
ここにはそれしかないから。

庭にはユリが盛夏の名残のようにいくつか俯いていた
きっと、あなたが好きだったんですよと
僕は言った
彼女にもう、これ以上残酷な出来事は必要ない
ミルクより白いものも、ユリよりも白いものも僕は知らない

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