抜歯の周辺/春日線香
 
モンステラには人間に似た感情があり、よくよく観察しているとそれがわかるようになるとか。とうに死んだはずのその人は嬉しそうに華やいで、薄暗い室内には草の匂いが立ち籠めている。






モノクロームの画面から常に逸脱していくものたち。それは目の端を横切って細長い体をシーツに潜り込ませる。布団を剥いだそこには影も形もなくて、あるいは錯覚かとも思うが、印象だけが灰色の壁に白線として刻まれる。






詩集に挟んだ青いカード。






空虚を埋めていくということ。






抜いたあとが大きな穴になってそこに血の塊が被さっているようだ。舌で触るとぷよぷよしている。痛みは大分やわらいだがどうしても気になって何度も触ってしまう。これではいけないと思って、気を紛らすために停留所脇の草むらに目をやる。今しがた、白い蛇のようなものが日向を逃げていった。








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