抜歯の周辺/春日線香
して足元もおぼつかない。駅からついてきた幽霊が不思議そうに見守っているのがなんとなく感じられる。ポケットに突っ込んだ手に針が刺さって、そこから冷たい汁が止めどなく溢れ出る。
箪笥の裏、床下、排水口の先、いたるところに人形が置かれてある。物干し竿に吊られて、首を折り曲げられて、針山にされて、どの人形も両目を潰されて嬉しそうだ。まるで人形として仮初の生を受けたことが幸せでたまらないといった風に微笑んで。
抜けた歯がどんどん口に溜まってくるので、枕元に用意した洗面器に吐き出す。ぽろぽろととうもろこしの粒でも吐いてるみたいだ。何度かそれを繰り返しているう
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