美しいものが/こたきひろし
ちまち洪水に飲まれる
僕は公衆電話ボックスから
抜け出せなくなった
公衆電話ボックスは
みるみうちに
水槽になってしまった
洪水に沈んだ街は
美しい絵画のように
なってしまった
それは地獄を写し取っていた
なのに
救いの手は
何処からも延びて来なかった
それは絶対的神の
ほんの無邪気な遊び心
かもしれなかったから
その時初めて
僕の中の時計は
逆さ方向に
回り出していた
溺れていく僕は
視力だけは
失わなかった
街は僕の妄想の中で
美しく
もがいていた
戻る 編 削 Point(5)