美しいものが/こたきひろし
 
ちまち洪水に飲まれる
僕は公衆電話ボックスから
抜け出せなくなった

公衆電話ボックスは
みるみうちに
水槽になってしまった

洪水に沈んだ街は
美しい絵画のように
なってしまった
それは地獄を写し取っていた

なのに
救いの手は
何処からも延びて来なかった

それは絶対的神の
ほんの無邪気な遊び心
かもしれなかったから

その時初めて
僕の中の時計は
逆さ方向に
回り出していた

溺れていく僕は
視力だけは
失わなかった

街は僕の妄想の中で
美しく
もがいていた





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