響き/パウロ
玄関は男女の冬物のコートでいっぱいだった
ぼくは小間使いにコートを渡すとネクタイの結び目を直した
客間からはテンポの速いピアノ独奏音が響いている
爪先立ちで足音を忍ばせながらぼくはドアを開けた
三十人ほどの客が思い思いのようすで聴いていた
ぼくは空いている肘掛け椅子に腰を下ろした
ピアニストは明るい色の睫毛をして
耳を真紅の色にそめて強く鍵盤を叩いている
彼の妻が楽譜をめくった
ぼくは周りを見回した
知っている色々な顔が見える
そしてその瞬間、水尾夫妻の後ろに別れた妻の顔を見たのだ
ぼくの心臓は拳骨のように一発撃ち、音楽をかき消すようにして
早鐘のように支離滅裂に
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