翠のはら/田中修子
いって いきましょう(おいで、おいで)
そしてあの
あつい草いきれを吸い込んで
つながれたまま
どこまでも どこまでも 抜けてゆく広い青い空を、ひたすらに、
よしよし-そっと、脳をしたさきでなぞってあげる
とん、とん、とん、とん。
青年が、泣いている
ころされた白い馬の骨の楽器をかき鳴らしている。
だれにもころされた白い馬がかつてあったのでした。
(祖母と母が口争いをしていて
ゆうごはんは罪悪の味がして
あのころ母を殺す夢ばかりみていたんだ それでぼくは
いつか殺人鬼になるんじゃないかと怯えていた)
そのいたみに、甘い、広い、
翠のはらのことをわすれようとしているのなら
幾らでも、のみこんであげる。
青闇が、おりてくるのは、まいにち瞼をとじるから?
すこしずつすこしずつ
夜のとばり、夜のとばり、夜のとばりに
明日を死にかけた女が、だきしめられてなきさけんでねむっている。
男は台所で菜を切っている。
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