坂だらけの街/ただのみきや
 
独居美人


託児所の裏の古びたアパート
窓下から張られた紐をつたい
朝顔が咲いている
滲むような色味して

洗面器には冷たい細波
二十五メートル泳ぐと
郵便物の音がした
気がしたが

「今日も人っこ一人いない
逃げ遅れたのはわたしだけ 」 

(ぜんぶ気のせいよ )
      ――お人形が笑った




付箋


何冊もの本や資料に貼られた付箋
色とりどりに飾られて頁はお祭り騒ぎ

なにがそんなに大切だったのか
なぜ大切だと感じたのか 

付箋を外せば その他大勢
どれも群衆に紛れて見分けがつかない





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