わたしは記憶/ただのみきや
 
わたしは 年老いたわたしの失われた記憶
小さく萎縮した脳の中 仕舞い込まれて 
行方知れずの 動かしがたい過去の事実だ

茫漠として靄のかかる
瓦解した印象の墓場から
時折ガラクタたちが目玉や手足を生やし遺失物を装って 
微睡みの上澄みに油膜のように浮かび上る
微笑み あるいは恨めし気な後味の 波紋を起こしては
去って往く ――おそらく わたしは
当のわたしにとってそんなもの

ノックしているのだ 内側から
わたしはここにいると

一切は失われることなく今も共に 
わたしはわたしの中に在る

それを幸せなことだとは思ってはいない
わたしは過ぎし日の記憶でありな
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