この夏に捧ぐ/ただのみきや
 
熟れた大気をすっぽり両の腕(かいな)に収め
瑞々しい空白に奏でる命の揺らめき
絃を断つ蝉ぽつり
また ぽつり
生の祭りの一夜飛行を終え
塵と積もる羽蟻 さらさらと風
山葡萄の花の匂い
悠久の面持ちで足早に過ぎ
窓枠の中を鴎がすべる
鮮烈な一瞬が
最後の持ち物となる
善くも悪くもない女神は
生命で身を覆い尽くした
半開きの扉
入口とも出口とも見え
光と影が互いに濃く寄り添った
そんな日は
生の分だけたわわな死がある




              《この夏に捧ぐ:2019年8月13日》






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