どこ吹く風/ただのみきや
 

 残されて
 草木の繁った廃屋の
 ひんやりした微笑みに?がれたまま 今も
 蝶を追うように
 壁伝いにさまよい歩く
 幾何学的病巣
 いつの頃からか目隠しをして
 形と音のつなぎ目を弄っているが
 堂々巡りの片言に 時おり
 風鈴が答えるだけ


想念が雨へと解かれる
光と影にあやされ眠る幼子と添い寝する母の面差し
消しゴムで擦った
残り滓から再びなにを聞こうとするのか
指を落としたような
花鋏の感触
手毬ほどの紫陽花をガラスの器に浮かべ
溶け混じる涼しさが 瞳から
肌の裏へと巡るまで
窓の下死んだカゲロウの翅が光を孕む
雲の形が変わるように
あなたは得体の知れない何かになった
騙すことも裏切ることもなく
錯覚は結晶化する
美しいという形容は醜いもののために
蜂に追われて泣き腫らした子供が
小鬼に変わるまで
見知らぬ誰かが復讐に来るまで




                《どこ吹く風:2019年8月10日》









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