ゴシック的断片/佐々宝砂
いイザベラ。
昨夜私が語ったことは嘘ではない。
君はこの館にいるべきひとではない。
どうか私を信じて私とともにきてほしい。
君の病のことなら恥ずかしく思う必要はない。
気にする必要もない。私は医師だ。
君のお父上と兄上の病は医学では治せぬが、
君の病は私が治してみせる。
愛しいイザベラ、
この世のものとも思われぬ儚いイザベラ、
愛と信仰こそは最上の医薬ではないか?
修道女は手紙を破り去る。
それは明日ひそかに竈で焼かれるだろう。
ええ。あの夜は凄まじい騒ぎでございました。
けれど館がすっかり燃え尽きるまで、
誰も気づかなかったんでございます。
私どもが気がつきましたとき館はもう黒い煙をあげるばかりで、
門柱のそばに伯爵さまと若さまが倒れていらっしゃいました。
それからイザベラさまのお姿は見えず、
ベックフォードさまは、ほら、あのとおり、
すっかり赤ん坊にかえってしまわれました。
修道女は微笑んで妹を迎える。
痛みに耐えいまや"彼"を虜にした美しいイザベラを。
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