片われの夢/帆場蔵人
 
片われをなくした
ビーチサンダルが
木陰で居眠りしている
その片われは今、どこで
何をしているのだろう

波にさらわれ海を渡って
名も知らぬ遠い島で椰子の実を
見上げて流離の憂いを抱くのか

いつも故郷では夏の日暮れに片われを
失くしたビーチサンダルがあちらこちら
ぽつり、ぽつり、と寄る辺なく
捨てられていた、町を出る数日前に
その片われに足を入れようとした
足はそのビーチサンダルには大き過ぎ
履けたとしても片われはそこにいない

わたしはそうして汽車に乗り町をでた

帰郷するまでビーチサンダルの事など
忘れて、故郷はただ美しい遠景であり
流離の憂いを帯
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