美笛峠/たちばなまこと
 
カムイが見送る季節だった

冬の到来を 無口なままで受け止める
シルクンネ 呪文 濃紺に沈んだ山々
薄桃と薄紫
どこからやって来たのか
悲しげな明かりのヴェールを羽織って
気をつけて帰って
また春に会おう
寒さに耐える険しい声で 父のワゴンを
たたく
窓にはりついた私の頬に 雪が
届きそうで届かないまま
車内の温度に消えてゆく
遠くまで吹雪の色
薄桃と薄紫
車内からこの部屋へ
私はいくつも歳を背負って
この瞳は この耳は この躰は
色を 色を 重ねて
戸外は峠と同じ 夜へ向かう色をして
夜のはじまりの吹雪の色は
これからたどり着く果ての
凍てつく美を 
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