美笛峠/たちばなまこと
部屋の明かりを閉じると
雪のシャワーが見える
毎日見下ろす家々の存在が
ゆるやかに散りゆくのを追っている
濃紺に不透明水彩をのせた
薄桃と薄紫
小さな明かりの秘やかなおしゃべり
シャワーでかき消されたおしゃべり
窓枠の隙間風に撫でられながら
ぬすみぎき
いつか下った峠の吹雪の色が
呼んでいる
若草の匂いを呼吸して
冷気をたたえた朝焼けのおはよう 瞼に焼きながら
ねまがりたけの子どもを 向かえにゆく春
涼しい渓流に飛び込みにゆく 胸躍る私たち
太陽いっぱいの風に 手を振る夏
落葉(らくよう)の下で待っている 白まつたけを掴まえに
温泉地の森へ もぐる秋
カム
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