夏の階に立ち/帆場蔵人
とり忘れられ
赤々と熟れ過ぎた
トマトが、ふと
地に落ちひしゃげ
鴉が舞い降りた
赤い飛沫を舐めとるように嘴で何度も
つつき、カァァァァァァ、と鳴けども
人びとは潰れた野菜など気にもしない
棒もち鴉を追っても、ただそれだけだ
唐柿に赤茄子、蕃茄に珊瑚樹茄子……
お前の呼び名は数あれど
鴉になんの意味がある
人の呼び名も数あれど
鴉になんの意味がある
熟れ過ぎたトマトをもぎとり齧りつく
赤い、飛沫が、白いシャツを汚して
熟れ過ぎた夏がたらたら落ちてゆく
名前など意味もなく嚥下されてゆく
誰も彼も、ふと、落ちてしまいそうな
夏の階に立ち、私の名前がたらたらと
意味を失ってゆけば鴉が舞い降りてくる
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