蠅/田中修子
 
くは最期のときなにももたずに逝く」
(レモンの香がするね--ね、トパアズ色の香気はしなくともせめて明るい色で刺青すればそれくらいは萎びた皮膚のうえに)
「老いさらばえたこの体 もう髪は白く抜け落ちている かつて漲っていた女はすべて抜け落ち
※吾れ死なば 焼くな 埋むな 野にさらせ やせたる犬の 腹こやせ

いや私は小野小町のようには美しくもない から ただ 雑木林の落ち葉の上によこたわる 手を組もうね、ね-- 右手と左手を愛しくつなごうね」
「組み入った枝から分け入った光がきらめいて差し込んでいる」
※故郷は遠きにありて思うもの そして……
(かつての詩人の漂泊の詩歌)
目をつむる暗闇の そう この数瞬 力を抜いて流れ落ちていく 波だ
その時初めて体に舞い降りる
あたたかな天衣、


---

※小野小町の辞世の句とされるもの
※室生犀星の詩「小景異情」より
戻る   Point(2)