再び巻き始めた釣意/北村 守通
エイヴォン川のグレイリング達のことを想うと抑えきれなくなって、私は竹竿を手に取った。フランク・ソーヤーは嫌っていたが、私は彼女たちの妖美な姿に骨抜きになっていた。
いつかバイカモ達が茂る川辺に立って。大きな背鰭をいっぱいに広げた彼女達の目の前に偽物の羽虫を送り込んで驚かせてやるのだ。
私は竿にリールを付け、実際に継いでみた。心地よい重さだった。更に色褪せたベストを羽織り、バウアーの帽子で爆発していた頭を覆った。パスポートはなかった。溜息を三度ついた。私はデスクに向き直るとカレンダーと対峙した。
エイヴォン川は無理だとしても。
忍野八海のバイカモ達も劣らず美しいのだ。グレイリン
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