息子への手紙/服部 剛
 
=あぐら}の中に君を坐らせ
絵本を開き
とびっきりのお話を読もう


ベテランの先生が言った
「おそうじがよくできたお子さんに
 がんばりましたカードをあげています」
だから
パパはまだ言葉を知らない七才の君が
カードをもらう日を、夢に見ている 


保護者会の前の昼飯を食べた
焼肉屋でつい麦酒を飲みすぎて
身を縮めて教室に入った
しょうもないパパである
でもな
君は世界にたった一人の息子だから
小さなからだに秘められた
君の中の小さな芽が
やがて空へ緑の葉を広げるように

パパの胡坐の中に
ちょこんと坐る君が 
絵本の物語を最後まで 
聞けたら 
手のひらで
君の頭をなでよう 

パパは
君がすやすや寝息をたてる頃
自分の生きる道をみつめ
今から六十年前
エース稲尾の投げたボールに
バットが空を切る瞬間を
夢に見る  





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