醜いか美しい/ああああ
 
れた。

このときの録音を皮切りに
ぼくは歌手になったらしい。
自分が歌手になるなんて想像もしていなかった。人前にたつのがなにより
苦手だった。最後に
顔をみせたのは小学校の卒業式のときで式ではバンダナで顔を隠すのが禁じられたからだ。
ぼくは結合双生児としても失敗した体
で生まれた。右の頭
に人格はなく、ウィンクができないみたいに左の頭だけでしゃべる
ことができない。常にユニゾンで声を出す。蛙
の鳴き声みたいに醜く共鳴
する。バスが目的地につくと照明
がついた。降りるなり砂ぼこり
が舞ってる。「会場はどこに
あるの?」と尋ねると
彼女はアスファルト
をキックして答えた。「ここ、ここ」
ぼくは恐る恐る
聞き返す。すると彼女は僕にキスした。
息を止めると、右の頭がなにかに気づいた。
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