バス停 第10話(最終話)/丘白月
土砂崩れで
バスは海まで流された
間もなく伊藤くんは帰幽して
妻の敦子さんのもとへ
別れと感謝を告げに行った
幾日過ぎただろう
敦子さんは会社を休み
季節を一つ越えていた
ある日敦子さんが
私の部屋へやって来た
これを・・・と
私の手に伊藤くんの気配がした
コスモスの押し花が
10年の時を超えて
帰ってきた
後ろに私のイニシャル
敦子は言った
バス会社のロッカーに
置いてあったと
そして
もう一つ智子に手渡したのは
紫苑(シオン)の押し花
これは・・・
後ろに伊藤君のイニシャル
これはきっと主人が智子さんに
渡したかったのだと思います
シオンの種が二粒挟んであった
涙が出て止まらなかった
ありがとう
二人で種を巻きたかったね
はっとした
いま伊藤君の声が聞こえた
ありがとう ありがとう
ただそう思うだけだった
黄昏に種を植えた
耳を澄ますと遠くに
バスの音が聞こえた
乗ればまた逢えるだろうか
優しい笑顔のあなたに
*おわり
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