夕暮れ/梓ゆい
 
父の遺影を眺めては
にっこりと笑う甥っ子。
あー・うー・とようやく声に出した喃語で
懸命に話しかけてくる。

死ぬことを自覚した少し前
最後に植えたくちなしの木は
一階の軒先よりも高くなり
白くかぐわしい花は
寝返りを打ちそうな様子を見守りつつ
梅雨空の晴れ間に葉を揺らしては
眠りを誘う子守唄となった。

涼しい風に吹かれて
丸みを帯びた小さな身体を包む
長く伸びた枝葉の影

(西日が差し込む庭先を背に
寝顔を眺める父がいる。)


そこから零れ落ちる陽だまりの中
小さな頭と柔らかなほほを撫でる
ごつくて硬い指先は
柱時計が鳴る17:00
気づくと何処かへ消えていた。
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