火の車と水の車/こたきひろし
街の雑踏で背後から声をかけられた
立ち止まりふり返ったら
人違いでしたごめんなさい
と若い女の人
人の流れは速くて
あっという間にその人は何処かにいってしまった
ほんの束の間の出来事
その日は休日
最寄りの駅から電車に乗って一つ先の駅で降りた
遊び場の多いその街
休みの日はたいがいそこに出掛けた
地方から上京して働きだしてまだ半年もたっていなかったのに
その間に悪事の浸透力は速くて仕事の染み込みはよくなかった
働いていた店の主人は七つ年上の独身だった
中学を卒業して十年近くは下町の洋食店で修行してから独立開店したらしい
背が低く小柄だか体はしっかりしていて
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