運命線がきえています/狸亭
 
あおじろい肌をした
女占師の
みひらかれたおおきな眼がじっと掌をみつめる
運命線がきえています
つぶやく口もとの酷薄なあかい色に
おそい夜の照明がつよくあたる
ふっくらとした親指のつけねは
女好きをあらわしています
肝臓がすこしわるいようです
それにしてもなんという不思議
あなたの運命線はきえています。

弟がきえ
母がきえ
父がきえ
ふるさとがきえ
血の太陽にそまる地中海がきえ

真夏の風がぬけていったパールベックの神殿
ダマスカスの夜空にちりばめられた星空
シシカバブのにおいにむせてあるいた路地裏
億年の時を記憶していたはずの
掌から
すっかりきえ
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