鳩と修司/ただのみきや
 
物を抱えた妊婦の腹を撫でる
小雨の跡は消え埃の匂いがまだひんやりしていた


追憶の嘯く仕草に見透かされて目を伏せる
その角度の企み
もの書きの言葉は蔓草のように空白を覆う
人の心の曖昧に輪郭を施すかのような美しい戯れ


首の曲がった男が笑う夜中のドアーのように
ドアーが軋む首の曲がった男が笑うように
どちらでも同じこと耳は聞いているだけの明き盲
人は夢を愛し言葉は真正直で欺く


西区の山の手にいつの間にか寺山修司資料館が出来ていた
入ると必ず携帯が鳴って外へ出る羽目になる
発寒川の鴎が光を切り裂いて目を瞑るほど眩しい
放棄したくなる幻より現を叶わぬからこそ喀血する




                  《鳩と修司:2019年6月15日》









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