『架空日記抄』/ハァモニィベル
 
知など捨ててしまえというわけで、上質な蜜を、二、三冊買って帰るだけである。ところが帰り道、なぜか、《統計によると世界では、年間に航空機事故で死亡する人よりも驢馬に殺される人の数のが多い》といった変なTriviaまでが、花粉団子の如く脳に沢山こびり着いてしまっているのが、まったくもって無用の用だ。


○月 □日
 『日記論』という大著を書き上げたので、ぜひ読みに来い、と言われたので、ああ『土佐日記』とか『更級日記』とかその辺の研究ですかと訊くと、全然違うもっと面白いものだと言うので出かけてみた。しかし、考えたら私は相手の住所を知らなかった。そこで、行く宛てもなくぶらぶらと暫く歩いていると、庭で日記を燃やしている和服の女性を見つけた。「墓を暴かれないように、闇から闇へ」と女性は微笑みを見せながら、歌うように、頁を破り取っては、火の中に投じていた。私は一瞬でその頁を読んで、美しい名文に舌を巻いた。私はそれを強く惜しんだが、最後は、その女性自身が燃えてしまった。










.――――<「架空日記」という企画テーマで書いてみた作品>
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