『メロス』/ハァモニィベル
生みの親たちと暮らした四歳の頃 そこに火と薪があった。
生贄の仔羊の姿は わたしには何処にも見当たらず
何も知らないわたしは両親の踊りを、ただ見ていた
何を与えられても、低く笑うしかなかったあの頃。
義父の葬式を終えてからわたしは
やっと 何かを求めてもいいのだと知った
わたしが持つものはただ一つの太陽だけだ
人の数だけ世界を隔てる分厚い画布の上
その太陽の眼は射し込んでゆく
どんなに 塗り潰されても
その上に 輝きをやめない眼だ
見渡せば
厚く塗り固められて 褐色になった あの
叫ぶような絵の具の下には もうあの
飛び去った麦わら帽子は 跡形もなく
もう何処にも 見えない
でも尚、
わたしのことを待っていてくれる あの帽子を手にした
シラクサの街の石工だけは、けして裏切りたくない。
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