あじさい/田中修子
 
うなものをつぶやく 鳥の鳴く苑
どきどきする心臓に赤い接吻が降りしきる わたしのゆびさきも求愛の嘴
 
紫陽花には 陽 という字が入っていて
梅雨の時期 煙る雨の中 永遠のように反射しながら光る
雨の日だけ、あの花から 紫の陽が差す 
梅雨の時期 ほんとうに 紫陽花のまわりは 粉ガラスのように きらめいていくから
牙をむいたシャチでさえ そのまわりを くるくるくるくる 泳いでしまって
そのくちもとが すこし 笑っている

すこし欠けた空想がめぐりめぐる くらい深層のゆめのなかに
やはり空想の紫陽花の鉢植えをおくと
そのまわりだけパッと明るくなった
人魚たちは水死体の肉を喰うのを少しやすんで
イソギンチャクやフジツボで飾りした黄色や紅色の傘をさして たまには女どうし 華やいだ噂話をする その色情の鱗を
つゆ色にくるおしく染めて
みなそこにも雨の季節がきたようだ
戻る   Point(17)