あじさい/田中修子
うなものをつぶやく 鳥の鳴く苑
どきどきする心臓に赤い接吻が降りしきる わたしのゆびさきも求愛の嘴
紫陽花には 陽 という字が入っていて
梅雨の時期 煙る雨の中 永遠のように反射しながら光る
雨の日だけ、あの花から 紫の陽が差す
梅雨の時期 ほんとうに 紫陽花のまわりは 粉ガラスのように きらめいていくから
牙をむいたシャチでさえ そのまわりを くるくるくるくる 泳いでしまって
そのくちもとが すこし 笑っている
すこし欠けた空想がめぐりめぐる くらい深層のゆめのなかに
やはり空想の紫陽花の鉢植えをおくと
そのまわりだけパッと明るくなった
人魚たちは水死体の肉を喰うのを少しやすんで
イソギンチャクやフジツボで飾りした黄色や紅色の傘をさして たまには女どうし 華やいだ噂話をする その色情の鱗を
つゆ色にくるおしく染めて
みなそこにも雨の季節がきたようだ
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