街へ《改》/秋葉竹
 
くれて、ありがとう、
悩まずに率直に感謝するね。

安っぽい陽気なブルースを一曲、
あの人の酔っぱらった歌声でなど聞きたくない。

愛おしい、むかし愛した声が、
両手で耳を押さえても、耳をくすぐるよ。

ようやく、声が透き通る夜更け、
逃げるように街を飛び出し、あの人から遠ざかる。

汚れて狂った荒波が、心の白いものを流しさり、
もしもそれでも許してくれるのなら、行く。

あの人に逢いにあの部屋へ行く、それから、
あの人の柔らかい優しいひざまくらに甘えていたい。

それで、私の人生で一番大切だった時間を
その一瞬だけでも、取り戻すのだ。

どれだけ走ってみても
虹の先へ届くわけなかった廃ビルの街。

星が、希望を偽って
月も、幸せを演じ切る。

どこにも悲しみをあらわせる場所などなくて、
ただ、悲しまないフリをするだけだ。

愚かで孤独なあの人と私、優しいけどどこにも、
ただ慰める言葉なんて有りはしなかっただろう?







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