「ひまわり」/羽衣なつの
 


 ある日、わたしは、麻子ちゃんに「買ってきて」と頼まれた新品のクレヨンを持って、麻子ちゃんをたずねた。クレヨンを手渡すと、麻子ちゃんは目をうすくとじて頭を垂れ、「ありがとう」といった。枕元に、ゴッホの画集があった。表紙は、有名な「ひまわり」の絵の図版だった。

 夏休みになり、わたしは毎日のように麻子ちゃんの家に行った。麻子ちゃんは、スケッチブックにクレヨンで、ゴッホの「ひまわり」を一心に描いていた。わたしは、「ひまわり」を描く麻子ちゃんを見ながら、夕方までそこにいた。話しかけてはいけない、と思いながら、画用紙に分厚く塗られていく、あらあらしいほどの生気を放つ黄色を、息をのむように見つ
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