真夜中、旋律のない第一楽章/ホロウ・シカエルボク
 
ているわけではない、他に表現すべき表情を思いつかないだけなのだ、眠らなければならない、このところ眠ることに不都合など少しもなかったのに、昨日から奇妙なほどに寝つきの悪い夜が続いている、これがどこまで続くのかはわからない、明日からは馬鹿みたいに鼾をかきながら寝ているかもしれないし、相変わらずこんなふうに戯言を書き並べているかもしれない、或いは小瓶を拾い上げて叩き割ったりしているかもしれない、そういえば、カッターでうっかり切り裂いてしまった親指の先からとめどなく流れる血を、ヴァイオリン・ソナタに心を奪われてでもいるかのように見つめ続けていたこともあった。


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