虫を飼う/田中修子
しく揺蕩っている
なぜ踏みとどまっている、この世はね、
「ほんとうにいいひとは だれひとりとしてもどってきませんでした」
耳をふさぐ。目もふさぐ。と、行き場を失った虫たちと、私、は、うちがわにいる。
うちがわをろぞろぞろぞろ這う、虫たちと
いっそう高くなる呼び声と
わたしは
しぬ
のではない
いく
のだ
生き、生き、イキキキキキキっ 行き来せよ、行き来せよと、
あの虫たちが私に囁く。
きちんと。洗濯ものをたたむ。ここに。
陽のにおいのするタオル。
丁寧に折ってたたもう。
きみ、晴れてるよ、今日は晴れているよ。きみのみなかった十数度目の五月だよ、そろそろあの黄色い花が咲くよ!
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