灯台守の話/相田 九龍
くなった
その歌があれば、どれだけ今の彼を慰めただろう
灯台の周りには、緑が敷きつめられていた
ところどころ岩が露出しており、そこに腰掛けて休むこともできた
彼が風の音に耳をすますと、歌が断片的に蘇った
しかし寝床につくと、またすっかり忘れてしまうのだった
彼は人恋しさを感じなくなっていた
その無感覚が彼を守った
そんなとき灯台と一体になれた気がした
彼は夜になると、アルコールランプに火を点けた
彼の故郷にも海があった
灯台のある岬のように、風が強く吹くと波が弾けた
一緒に住む家族はそれほど多くなかった
母と姉と、留守がちな父親
この生活で蓄えた髭は、父親の髭によく似ていた
嵐の日は、誇りを持って灯台を見守った
そんなときこそ、灯りを絶やしてはいけない
岬の向こうに船があるかは分からない
それでも誇りを持って、灯台を見守った
嵐が明けると、彼は町に出た
水や食料、ランプの燃料を買い足し
また灯台に戻った
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