救済へ至る道/来世の
この世の真理が溶けているという湖へ、入水自殺でもしようかと車を走らせる。近づくほど耳鳴りが和らいでいく。さながら告解室にいる気分だ。
朝な夕な哲学やら宗教やらに明け暮れていた女を、昨日殺してトランクへ押し込めた。俺の足らない脳には、彼女の発する言葉が異星人のそれに思えて仕方がなかった。理解の先にあるものは何だったのだろう。あの湖に沈めば俺もおまえも神に近いところまで行けるよ、なんて大ホラ吹いて、慰め合うための深い感情の機微が一瞬だって重なったことがあったのか。馬鹿を免罪符にして生きてきた易しさと苦しさを、明け透けにエンジンへ乗せる。
こんな日にも薄汚れた曇天が、人殺しと死体のドライブにはお似合いだ。辺り一面、ろくに手入れもしていない車体の塗料をそのまま吸い取ったんじゃないかという色合いに、喉の奥がほんの少しだけ愉快な感覚になった。加速、そして来たるべき時に息を呑む。人間を脱したかのような浮遊感、成す術のない衝撃、真理が彼女であったらいいと身勝手に願い、高らかに上がる飛沫を喝采に見立てることを、最後の罪とする。
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