環天頂アークの下で/アラガイs
聞き取りにくい小さな呟きだったが、それは明らかに残り少ないわたしの寿命を確信させるには充分な囁きだった。
娘の笑い声に眼を覚ました。今日という日が何年の何日なのか、わたしの記憶のなかでは平成の文字が巡るだけだった。
暗い部屋の傍らから射し込んでくるわずかな灯り。息づかいの音を殺しながら、冷えた筋肉の、強張った皮膚を剥がすように、瞳を右に動かしてみる。白い衣服が対話の動きに揺れていた。
それは微かな残り香が漂う笑い声ではあったが、これも最後になるのかと思えば、まるで天上の喜びのように溶けた記憶の糸をくすぐった。
そういえば最後を見送ってやれなかった母親との笑い声はいつから途切れたのだ
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